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加重平均資本コスト

加重平均資本コスト
写真:freepik.com

日本取締役協会

資本コストとは、一般には、加重平均資本コストを指す。では何の加重平均かというと、負債のコストと株式(株主資本)のコストの加重平均である。加重平均資本コストに相当する英語が、"Weighted Average Cost of 加重平均資本コスト Capital"であり、略してWACCという。つまり、WACCと資本コストとは同じものを意味している。 さて、本誌の読者の皆様は、投資案件や大きな資金調達を実行するか否かについて、日常的に判断を求められていることと思う。実務的にはそれぞれの会社によって、その判断基準はまちまちであろうが、企業金融理論では、その判断基準は明確かつシンプルである。投資についていえば、投資案件によって生み出される毎期の「将来キャッシュフロー」について、「割引現在価値」を計算し、それが投資金額を上回れば、その投資案件は実行すべきである、というものである。

お金の時間価値と金利

複利計算と割引現在価値

無リスク金利とリスクプレミアム

●式3
国債のリスクプレミアム=0
<社債のリスクプレミアム<株式のリスクプレミアム

●式4
負債コスト:Rd=Rf+(Rd-Rf)
株主資本コスト:Re=Rf+(Re-Rf)

株式保有のリスクと株式の期待収益率

将来キャッシュフローを割引くにあたって適切な割引率とは?

資本コストと機会費用

さて、「資本コスト(Cost of Capital)」とは、「調達した資本に対して投資家が期待する収益率」と定義される。資本コストの正式名称を、「資本の機会費用(Opportunity Cost of Capital)」という。投資家は、その会社の社債や株式に投資することで、数ある他の投資機会を断念していることになる。そこで、企業経営者は投資家に対して、他の投資機会ではなく自社に対して資本を提供してくれていることに報いる責任が生じる。 現在の社債権者や株主が、社債や株式に投資しているのは、同程度のリスクがある他の投資機会と比較して、現時点において、その会社の発行する社債利回りや株式の期待収益率が、十分魅力的であると感じているからである。従って、企業経営者にとって、投資家に対して報いるべき最低限の収益率は、社債保有者についてはその時点における社債利回り、株主についてはその時点における株式の期待収益率ということになる。

負債コストは財務数値を用いて推定

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●式6

株主資本コストの推定CAPMによる推定

この式を、資本資産評価モデル(Capital Asset Princing Model)、略してCAPM(キャップ・エム)と呼ぶ。

(Rm-Rf)は、単に「株式リスクプレミアム」とも呼ばれる。日本株についてはTOPIXを用いた実証研究の結果3~6%と推定されている。また標準的な企業金融の教科書である、"Principles of Corporate Finance"(Brealey, Myers and Allen著)は、米国株の株式リスクプレミアムを5~8%としている。

このようにCAPMを用いた株主資本コストの推定に必要なインプットである、Rf, β, Rm-Rfは、全て資本市場において観察可能か、推定済みということになる。

WACCの計算

  1. "Net Present Value"の略で、日本語では「正味現在価値」。
  2. ここでは、中央銀行=政府と考えている。現実には、政府からの中央銀行の独立性を法律によって担保していることが多い。
  3. 無リスク金利は、「リスクフリー・レート」とも呼ばれる。無リスクといっても、自国通貨による支払いについてリスクがないということである。国債でも市場金利の変動に伴う価格変動リスクや、インフレーションによって実質価値が減価するリスクなどには晒されている。また同じ国債でも、外貨建て国債は無リスクではない。
  4. βは、代表的な表計算ソフトExcelを使うことで、簡単に推定することができる。まずTOPIXと分析対象銘柄の株価データを用いて、それぞれ直近60ヵ月分の月次収益率を計算する。X軸をTOPIX、Y軸を当該銘柄の月次収益率として、60ヵ月分の収益率に関して散布図を描く。その散布図に基づき回帰線を引くと、その傾きがβとなる。

熊谷五郎Goro Kumagai 加重平均資本コスト
みずほ証券株式会社グローバル戦略部産官学連携室上級研究員、公益社団法人日本証券アナリスト協会企業会計部長、京都大学経営管理大学院座客員教授。
国内外の会計基準設定、財務報告・サステナビリティ報告制度に幅広く関与する一方、京都大学経営管理大学院にて、留学生向け講座 "Corporate Finance and Capital Markets"加重平均資本コスト を担当。IFRS Interpretations 加重平均資本コスト Committee 委員、企業会計基準委員会委員(非常勤)、企業会計審議会会計部会臨時委員、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ委員等を兼任。1982年慶應義塾大学経済学部卒、1987年 New York University, Stern School 加重平均資本コスト of Business卒

M&Aお役立ち 詳細

会社が会社を買うとき、既存事業を拡大しよう、新規事業に投資しよう、海外に参入しようというように、そこには多くの期待が含まれます。この期待は全て「将来」に向かった期待です。今はぱっとしない事業でも、将来は花開くことを期待しているから、会社の購入を決定します。事務効率化や規模の効率性を考えた結果会社の将来のためになるから、会社を購入するのです。そのため会社を購入する側は、その会社が「将来」どれだけ貢献することができるのかを一番に気にします。

コストアプローチである時価純資産法や、マーケットアプローチである市場株価法・類似会社比較法(マルチプル法)等は、あくまで「現時点」の価値を表しているにすぎません。もちろん株価はある程度投資家からの将来の期待も含まれた上で値付けがされていますから将来価値とも言えますし、また現時点の価値も重要な情報ではあります。しかし、買収効果を全て反映させて将来の期待を価値として評価するDCF法は、理論上は買収する側が最も必要とする情報になります。

理論上は上記のように価値ある金額の算定が可能なDCF法ですが、将来という不確定で恣意的な要素が非常に多く入るため、あまり客観的な数値とは言えません。

2.割引現在価値とは

まずはDCF法の大前提として、割引現在価値をご説明します。DCFのDは割引を意味するディスカウントのDで、割引現在価値という考え方が用いられています。DCF法は将来に渡る複数年の時間軸を考えますが、最終的には「今の価値はいくら?」となりますよね。そのため割引現在価値という考え方を用いることで、「今の価値」に全て統一することとなります。

①「今」と「1年後」の100万円

「今」100万円手に入れて、銀行預金に預けました。預金利息が3%だとすると、1年間に3万円の利息が手に入ります。「今」の100万円は、「1年後」には103万円になります。100×(1+0.加重平均資本コスト 03)=103ですね。(預金利息にしてはかなり高いですが、3%あたりが分かりやすいので説明上は3%としています。)

1年後にするためには「×(1+0.03)」をしていましたので、1年前に戻すには割り算「÷(1+0.03)」をすれば良いです。100万円÷(1+0.03)=約97.09万円となります。

(検算)97.09万円×(1+0.03)=100万円

無事1年後に100万円になりましたね。「今」97.09万円を手に入れて銀行預金に預けると、1年後には100万円になります。1年後の利息を含めた金額を算定するには掛け算をしますので、逆に1年前の金額を算定するには割り算をすることになります。

さて、時間価値で重要な点は、「今の価値で比較が出来る」ことです。

②現在価値の計算式

先程の例を使って、かみ砕いて見ていきましょう。今の100万円は、1年後の103万円と同じ価値になっていました。1年後の金額は単純に×(1+利率)でしたね。1年前に戻す場合は、÷(1+利率)とすれば良いはずです。

③事例で考える現在価値

1年後:100万円÷1.03=97.0874…

2年後:100万円÷(1.03)^2=94.2596…

3年後:100万円÷(1.03)^3=91.5142…

このように、投資に対して求めることになる期待運用収益率で割り引くことが一般的です。リスクの低い投資(銀行預金等)であれば、期待運用収益率が低いため、割引率も低くなります。一方、リスクの高い投資(株式等)であれば、期待運用収益率が高く、割引率も高いものとなります。DCF法では、後述するWACCという割引率を使用することとなります。

3.WACCとは

①WACCの基本

企業価値算出の際には、「WACC」という割引率を使用します。WACCはWeighted Average Cost of Capital:加重平均資本コストの略で、債権者(負債側)と株主(資本側)が対象企業に求める期待投資利回りの加重平均を示します。

企業が資金を調達する手段は大きく2つあります。返済義務のある負債で調達するか、返済義務がない資本(株式)で調達するかです。

②負債コスト

負債コストは、評価対象企業の格付や実際の借入利率等を用いて算定します。多くの場合では現行の借入コスト(借入利率等)を使用し、事業計画期間における想定値がある場合はそれを加味しつつ、検証として評価対象会社と同水準の格付を持つ企業の社債利回りを参考にします。

ここで、負債の利息は税務上損金となります。利息100円、法人税率30%としたときに、利息100円を支払うとその分利益(課税所得)が減りますね。負債の利息を支払わない時と比べて、100×30%=30円だけ税金が小さくなります。

そのため負債利息は100ですが、実質的には100-30=70が負債に係るコストであると考えられます。この税金軽減効果を数式上示しているのが、(1-T)の部分です。

③株主資本コスト

株主資本コストは、評価対象会社の株式へ投資する際の期待収益率です。負債コストは現行の借入利率があるので比較的算定に困りませんが、株主に対しては利率等の明確な概念がないため、株主の要求利回りをもとめることは一筋縄ではいきません。

そこでよく使用されるのが、CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産評価モデル)という手法です。投資家の期待利回りを、リスクなく獲得できる利回り部分と、リスクを負うにあたり追加で求める利回り部分に分解して算定する手法です。このように一定の手法を用いて、株主資本コストを算定することとなります。

資本コストの算定

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株主資本コストの算定

まず、上記の式で「RE」として示されている株主資本コストからご紹介しましょう(Cost of Equityが英語になりますが、表記上はCではなくRを使います)。

いきなりですが、株主資本コストと言えば「CAPM」、Capital Asset Pricing Modelの頭文字の英語を取ったもので、日本語で表すと「資本資産価格モデル」と呼ばれる計算式で算定されるのが一般的です。ファイナンスの世界では、ほぼ日本語に訳されることなく、CAPMという表現がこの世界の標準語になっています。計算式は以下のとおりです。

私の場合は、ざっくりと、リスクフリーレートについては2%、そしてマーケットリスク・プレミアムについては、日本の場合は5%と仮定して、あとはβを入力するだけということで計算しています。あくまでも、株式市場では、企業に対して、どの程度の収益率を期待しているかを把握するためのものだと割り切って、このCAPMを使っているわけです。

「ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務」 石野 雄一著 (光文社新書) 2007/4/17
  1. まずはトップページのカテゴリー「株式市場」を選択し、「国内株式」を選択します。

  1. 次に「国内株式」の株価検索窓口に会社名または銘柄コードを入力します。ちょうど広告に孫さんがいらっしゃるので、ソフトバンクグループ(SBG)で検索したいと思います。

  1. メニューの中にある「指標」をクリックすると様々な情報が網羅されていますが、「価格と出来高」という項目の中にベータ値の情報が用意されています。

株主資本コスト = 2%(リスクフリーレート)+ { 5%(マーケットリスク・プレミアム) × β(1.01)} = 7.05%

となります。これで国内の上場企業であれば、いつでも株主資本コストを算定することができます。例えば、トヨタ自動車であれば 7.35、ソニーであれば 6.3と算定できるわけです。

負債コストの算定

ここで、期首(一年前の残高)と期末(当期末残高)の平均の有利子負債残高を分母として利率を算定すると、2.4 ÷ 60 = 4.0%と算定されます。

上記の計算方法を用いると、前期末15兆6,851億円、当期末14兆2,722億円の平均値は14兆9,786億円となりますので、年間の財務費用(支払利息)3,009億円を金融負債の平均値で割り算すると、「2.01%」の負債コストが算定されます。

WACCの算定

REとRDが算定できました。よって、上記のWACCの計算式に数字を代入することによって資本コストを算定することができます。当期と前期の資本合計の平均値が8兆1,911億円になりますので、これをEに代入し、Dは負債コストを算定する時に計算した14兆9,786億円を用いて、上記の式で出てくる「E 加重平均資本コスト /(E+D)」と「D /(E+D)」の部分の計算が可能となります。

(7.05% × 0.354 ※1) + (2.01% × 0.646 ※2 ) = 3.79%

※1 0.354 = 8兆1,911億円 ÷ (8兆1,911億円 + 14兆9,786億円)
※2 0.646 = 14兆9,786億円 ÷ (8兆1,911億円 + 14兆9,786億円)

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